紀伊半島の環境保と地域持続性ネットワーク 紀伊・環境保全&持続性研究所
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 本の紹介

  浜島繁隆・土山ふみ・近藤繁生・益田芳樹 編著:

   ため池の自然 −生き物たちと風景−

        2001年 信山社サイテック 231頁

(本の構成)

 第1章      ため池の概観
      1)      ため池の歴史
      2)      ため池の分類・分布
      3)      ため池の風景と暮らし

 第2章         ため池の水環境
      1)      ため池という水環境
      2)      ため池の生態系と物質循環
      3)      ため池の水質
      4)      ため池の水質指標

 第3章       ため池の生き物
      1)      ため池の植物
      2)      ため池の動物

(書評)

 近年、ため池は、都市化や周辺開発による環境悪化、農山村の過疎化や混住化などによる維持管理の低下、外来魚の放逐による在来魚類等の衰退など、農業用灌漑水供給機能、生物多様性保全機能、景観などに関わる様々な問題が生じている。一方では、ため池の身近な生物、希少生物、生物多様性の保全を目的にしたNPO等の活動も生まれている。

 こうした中で、本書は、ため池の環境保全に関心を持つ多くの人達や、ため池について基礎的な知識を身につけたい人達にとって、格好の入門書・ガイドブックとなると思われる。

 本書は、「本の構成」にあるように、ため池について、歴史的文化的な側面、水質の側面、生き物の側面から多面的に書かれている。それぞれの項目を18人の専門家が分担執筆し、それぞれポイントとなる事柄が要領よく書かれているので、ため池の維持管理、そこに棲む生物相の保全、自然環境教育に関わる人達にとっても、ため池について全般的な知識を得るのにたいへん有用である。

 第1章では、日本最古のため池の築造記録や各地のため池の築造年代など、ため池の歴史について書かれている。全国的なため池の分布や各地のため池数の推移、ため池の堰堤の位置や形による分類法、ため池の景観や水利慣行などについても書かれている。本章には、ともすれば忘れられている歴史的文化的なため池の価値を考えていく上で示唆に富んだ内容が盛られている。

 第2章からは、ため池の環境や生態系、食物連鎖といった基礎的な知識が得られる。また、ため池の水質について、特に富栄養化との関係で詳しく述べられている。ため池の水質保全の重要な目安として、アオコとその異臭の発生防止、水中の酸欠防止があるが、それが発生する条件が述べられている。さらに、ため池の水質と、季節変動、日変動、水深などとの関係が述べられており、水質は1日のうちでもかなり変動し、深さとも関係していることが分かり、調査を行う際に参考になる。さらに、水質調査におけるサンプリング法、水温、濁り、溶存酸素、pH、電気伝導度、窒素、リンなどの測定法についても、それぞれの持つ意味と技術的内容が詳しく述べられている。

 第3章のため池の植物では、沈水植物、浮葉植物、抽水植物、シャジク藻類について、それらの種類と形態、生活史、生態、標本の作り方などが書かれている。ため池の動物では、淡水産海綿類、淡水苔虫類、淡水産貝類、クモ類、トンボ類、水生カメムシ目、トビケラ類、水生ハエ目、淡水魚類、両生類、カメ類、鳥類など多くの分類群について、それぞれの種類とその生態などが解説されている。

 以上のように、本書はため池についての総合的な解説書であるので、ため池に関心を持つ読者が、自分の関心事だけでなく、ため池全般についての知識を身につけ、ため池の問題を考えていくのに役立つ。より多くの個別生物の種名を正確に同定するためには、それぞれの分類群の専門書が必要であろう。

 筆者は、最近、当ホームページに「ため池の観察」を掲載したが、今後、ため池に棲息する生物の現状把握と保全に役立つ情報を得ていくために、本書を座右に置いて、勉強と調査を進めていきたいと考えている。
(2007.5.30/M.M.)


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